今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~定年をめぐって~

労働者健康安全機構 産業保健アドバイザー 飯島美世子

私が新入社員として就職した当時の定年は55歳でした。その後段階的に60歳に延長され、今また65歳定年制が議論されています。実際には定年後の再雇用で65歳、あるいは70歳まで定年前と同じように働いている方も多いと思います。

55歳の定年を段階的に60歳まで延長するとの議論が持ち上がった当時、長年、3交替制勤務で重労働に従事してきた労働者は、定年延長を歓迎しなかったと聞いています。定年まで1年を切って毎日の通勤ももう少しで終わりと思っている今になって、定年は3年後といわれることは、マラソンで42㎞走ってきてゴールが見えてきたのに、そのゴールのテープが遠ざかっていくことと同じ、と嘆いたそうです。長年健康管理に従事してきて定年が60歳に延長になった当時感じたことは、50歳代後半に重篤な疾患を発症し、休職からそのまま定年を迎えたり急死する従業員が出てきたことです。今では、60歳は通過点もしくは一区切りのイメージにすぎませんが、当時は健康にとって60歳の壁は厚く、無事に定年を迎えることは大変なことのように感じました。一方で、きめ細かな健康管理に熱心に取り組んでいる企業の産業看護職は「定年退職後も何かと電話で質問してくるOBがいる。頼られるのはうれしいが、これではだめだ。自分たちの役割は、自分自身で健康管理が出来るように従業員を育てる事だったのではないか、自分たちの活動は間違っていたと思う。」と反省を込めて話してくれました。今では、60歳を過ぎても健康な労働者が多く、60歳の壁は消失したように感じます。そして、職域の健康管理は、ヘルスリテラシーの高い人を養成し、社会に送り出すとの考えも普及したと思います。

ところで、最近、熟練工を多く抱える企業の人事・労務部門に所属し、安全・健康領域を長年担当してきた部長職の方が、「再雇用の高齢者には働ききってもらう」というのを聞きました。いまや企業では団塊世代の定年退職者が相次ぎ、現役の熟練工は数少ない存在になっていますので、再雇用の高齢者であっても貴重な戦力なのです。「あなたの持てる能力を存分に活用させてもらう、体が動く間は会社はあなたを手放さない、会社は慢性疾患があっても服薬しながらの体調に配慮して仕事内容を変更したり、勤務時間の短縮を図るなど配慮しますので、最後まで元気な健康状態を維持して働いてください」というメッセージが込められていると推量できます。そして、ここまで言い切れることの自信の背景(健康管理や労務管理、職場の整備等)を知りたくなりました。

一般的に、シニア、シルバー世代では、何らかの疾病を持つ労働者が増え、治療や検査で通院する機会が増えます。そこで、「働き続けることが可能」な健康状態ではあっても、職場では定期的通院日の確保や健康状態に応じた適切な配慮等が必要になります。職場として心しておきたいことです。治療と仕事の両立支援の理解が進み、職場での取り組みが広がることを期待してやみません。

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