医療従事者、産業医スタッフ向け



今月の現場から(保健師コラムリレー)

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広島県における治療と仕事の両立支援の普及啓発と相談体制の構築 ~出張相談窓口との連携強化に向けて~

広島産業保健総合支援センター 産業保健専門職 寺村 清美

全国の産業保健総合支援センター(以下、産保)では、管内の主要病院に治療と仕事の両立支援(以下、両立支援)出張相談窓口を設置し、相談対応を行っています。
 私が広島産保に着任した当時、がん診療連携拠点病院の6医療機関と両立支援実施に係る協定を締結していました。しかしそれは、スムーズに締結できた医療機関のみであり、がん診療連携拠点病院協議会を中核的に開催していた大学病院とは締結できていませんでした。県内の両立支援相談体制構築には大学病院との協定が不可欠と判断し、大学病院がん相談支援センター担当看護師を窓口に必要性の説明を重ねて信頼関係を築くことで、無事締結に漕ぎ着けました。今では大学病院の他、急性期医療を司る主要病院や、回復期リハビリテーションを提供する病院、肝疾患相談室など、計17病院18部門と協定を締結し、連携を図っています。
 しかし、協定締結医療機関(以下、医療機関)数は拡充したものの出張相談窓口の相談件数・内容・問題や課題などは把握できておらず、各医療機関に実績報告を求めたところ、「なぜこの報告が必要なのか」「どこにこのデータを提出するのか」など、理解が得られず実態を把握することができませんでした。そこで、出張相談窓口連携会議(以下、会議)を新たに開催したところ、「他病院のフローチャートを参考に院内の体制づくりができた」「電子カルテの中に様式を入れたことで算定数が増加し、効率的な支援ができた」など、医療機関同士の情報交換・連携、課題共有を図ることができ、現在年2回定例開催しています。
 会議の開催を重ねるにつれ、出張相談窓口の現状が見えてきました。「診断や治療開始直後は就労に関するニーズは少ない」「患者から就労相談がないのは困っていないから」「経済状態を尋ねるのは個人情報に抵触するので聞けない」「両立支援の相談にかける時間も人員もない」「理解ある医師が少ない」など、両立支援を含む就労支援への理解不足や支援を狭める要因が分かり、相談支援者へのフォローが必要と感じました。そこで、就労に関するアセスメント(情報収集・整理・統合)、そのアセスメントを根拠にしたプランニング、関係機関との連携などを意識し、「ソーシャルワークから学ぶ面接技術」「生活や経済的問題を情報収集した上でのアセスメント方法」「様々な社会資源の活用」などのテーマを会議に盛り込み実施することにより、学びの場を提供しています。これらの取組みにより、横の連携を図るだけの会議ではなく、両立支援に限らずあらゆる相談の支援技術の向上に繋がっています。また、両立支援の具体的な進め方、支援方法が分からない時などは、医療機関の相談先として産保が頼られる存在となり、産保と各医療機関との連携強化へと繋がっています。
 あらゆる疾患の患者への就労支援を実施することは、ダイバーシティ・インクルージョンの時代、重要な視点であると考えます。「身近な場所で労働者(患者)が相談できる」「病院でも仕事の相談ができる」が社会に根付くよう、共に頑張りましょう。