医療従事者、産業医スタッフ向け



今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~中小企業における治療と仕事の両立支援への開業保健師の関わり~

アクトグレースサポート株式会社 代表取締役 田中千恵美

行政および全国健康保険協会での実践経験を経て、6年前から開業保健師(以下、保健師)として活動を始め、現在23の事業所を支援しています。うち15事業所は産業医の選任義務のない小規模事業所です。職員の全員面談を実施し、ご家族の悩み事も含めて相談対応しています。

 がん、糖尿病やメンタルヘルス不調などで休職や就業上の配慮が必要な状況に陥った際、できるだけ早い時期から保健師面談を実施します。全員面談の効果で、職員は些細な心配事でも保健師に打ち明けてくれます。休職中にも本人と定期的なWEB面談や電話での近況確認を行います。復職支援の段階に入れば、主治医意見書の入手方法や生活リズムを整えること等についての助言を行い、産業医がいる場合は産業医面談の調整をします。また、事業所とも調整を行い、必要に応じて人事労務担当者(以下、担当者)、社長・役員等にも説明します。復職後は、定期的なフォローを行います。

【事例紹介】
 悪性リンパ腫治療からの復職事例を紹介します。介護・福祉関係のA社(従業員約60名)で管理職として働くBさん(男性60代)とは毎年面談をしており、親の介護の相談などもしてくれる関係でした。某年6月に悪性リンパ腫(ステージⅢ)の診断を受けて入院します。治療後の本人の復職希望意思を受け、人事労務担当者とともに復職に向けての準備にとりかかりました。Bさんを通じて、事業所から主治医に勤務情報提供書を提供しつつ、診断書及び就業継続可否や職場復帰に関する主治医意見書に記載いただけるよう依頼し、Bさん自身にも現在の生活状況についての書類を提出してもらいました。主治医意見書によると、抗がん剤治療の後、放射線治療を実施(翌年1月末に終了予定)、易感染性があり不特定多数との接触は避けるようにとのことでした。事前にBさんと保健師とでWEB面談を実施した後、保健師同席のもと産業医面談(対面)を行いました。職場巡視などで、勤務場所が感染予防の観点から換気等に若干の問題があることが分かっていたため、テレワークを含めた感染予防に重点をおいた復職プランを提案しました。事業所への出勤も半日勤務から始め、段階的に勤務時間を増やしました。A社には保健師として月に1~2回支援していますが、3月までは支援の際には必ずBさんへのフォロー面談を実施しました。
 現在、Bさんは、体調を崩すことなくフルタイム出勤し、仕事を継続できています。*Bさんの言葉:「がん告知を受けたときは頭が真っ白になりました。顔見知りの保健師さんと話すことができて少し冷静になることができました。再び同じ職場にもどることができて本当に嬉しいです。」

 日頃から、保健師が担当者や職員との関係性を構築することで、タイムリーに支援を提供することができます。産業医の関わりは時間や頻度が限られることが多いので、保健師は産業医への事前の情報提供などを行うことも大切です。
 自身の経験から、保健師と契約をしている事業所では担当者や上層部の理解も得られることが多く、比較的円滑に支援を展開できると感じています。保健師等の産業保健看護職を活用することで、想像以上の効果が期待できます。支援を必要としている事業所と産業保健看護職のマッチングが今後の課題ではないかと考えています。

※ 本コラムで紹介している事例は、ご本人および事業所の同意を得た上で掲載しています