~「治療と仕事の両立」で感じること~
神奈川産業保健総合支援センター 産業保健専門職(保健師) 西尾 泉
産業保健総合支援センターに産業保健専門職の配属がはじまり、はや1年が過ぎました。
当センターでは、現在までに延べ8万枚の「両立支援カード」を配布するとともに、労働局、自治体、関係諸機関等と協同した周知活動、また県内の4つの医科大学や難病相談支援センターとの連携等が奏功して、様々な方々から両立支援に関する相談を寄せていただきました。昨年度、当センターに寄せられた両立支援に関する相談は、3分の2が労働者(本人)やその関係者(主治医、MSW、関係機関、家族、友人等)からのもので、3分の1が事業所からものです。このコラムリレーでは、特に事業所の支援をしながら感じたことをご紹介したいと思います。
相談してくださった事業所の多くは、既に治療と仕事の両立支援(以下「両立支援」という。)に取り組んでいる、あるいは理解のある事業所です。こうした事業所だからこそ“なんとかしたい”“両立支援の具体的な方法を知りたい”との理由で外部機関である当センターを利用してくださっています。
しかし、こうした事業所のうち両立支援が上手く進められず相談されるケースがあります。事業所として復職、就労継続に前向きで、当然労働者(本人)の方も同じ気持ちであるにも関わらず、です。あるケースでは、主治医の「復職可」との意見書を受け、軽作業に転換して復職されましたが、就業時間までに出社できない、1日の作業が持続できないといった状況が生じて当センターへ相談されました。また別のケースでは、透析時間の確保のため時差出勤されている方で、透析センターの主治医による「通常勤務をして差支えない。配慮の必要なし」との意見書により勤務を継続されていましたが、健診で治療が必要な所見が見つかり、事業所としては他に何か配慮しなければならないことがあるのではないかとの不安を抱え相談されました。いずれも共通していたのが主治医に対しても、また事業所に対しても、ご本人が自身の情報を出すことに消極的だったということです。両立支援は、支援を必要とする労働者(本人)が、支援に必要な情報を収集して事業者に提出することから始まるとされていますが、労働者(本人)から必要な情報が得られず(提出されず)、両立支援が“しっくりいかない”ケースは、当センターに寄せられた事業場からの相談の約3割を占めます。
労働者(本人)と事業所とのコミュニケーションは、実はそう簡単ではないかもしれません。労働者(本人)にとっては、「自分ごとで迷惑をかけている」、「言わなくても察してほしい」、「正直に話すと自分に不利に働くのではないか」、「立ち入ったことを聞かれたくない」等の気持ちがあるのは当然ですし、また事業所にとっても「個人の病状という機微な内容にどこまで踏み込んでいいか」という遠慮や戸惑い等があるのも理解できます。情報が提供されづらい理由は個々のケースによって様々でしょうが、少なくとも上記の場合は、主には経済的基盤が失われる不安、不慣れな仕事へ転換させられる不安等々、また労働者の方々が自己理解や両立支援への理解について十分でなかった点もあるかもしれません。
こうした場合、事業所が労働者(本人)とのコミュニケーション(対話)の機会をつくることになります。当センターの役割は事業所として対応可能な範囲と労働者(本人)の希望とのすり合わせをしながら、双方の落としどころを見つけていく作業へと進めていくことです。また別の選択肢として、労働者(個人)が事業所に言いづらいことがある場合や事業所の担当者と面談する前に、情報を整理する等のために当センターを利用されても良いように思います。
産保センターが信頼される存在として広く認知され、双方が納得できる両立支援のために貢献していけたら良いなと日々感じています。