~「働く」ことの意味を共に考える支援~
高砂熱学工業株式会社 人事部健康管理室 保健師 村山亜矢子
「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」が公表されてから4年が経過し、最近では多くの業種、規模の事業所で両立支援の意識が根づいてきたように感じています。私も産業保健師として数社を経験する中で、慢性疾患の治療と就労継続の必要性を強く感じている者の1人です。今回は両立支策を通じて、「働く」ことの意味を考えたいと思います。
まず、弊社の両立支援についてご紹介します。弊社には、病気を理由とした両立支援の制度はありません。しかし、幸いなことに既に育児と介護を支援する勤務時間短縮や在宅勤務制度が整備されています。例えば、糖尿病の悪化により人工透析が必要となると、週3日、1回4時間程度の通院が必要となります。このような場合、弊社では介護を目的とした勤務時間短縮制度を、特例として適用することが可能です。
また、抗がん剤治療を行う社員に対しても、育児・介護支援を目的とした在宅勤務制度の利用が応用できます。抗がん剤治療後の副作用の強い期間や、体力低下時に、在宅勤務ができれば、就業継続の大きな支えとなるでしょう。一方、在宅勤務制度の応用を検討した際、事業者側からは、安全配慮義務の遂行と、与える業務内容について戸惑う意見が出されました。関係者で検討した結果、就業中に体調が急変した場合の対応については、管理監督者と本人が1日4回連絡をとって安否確認を行うことを決め、在宅勤務制度の両立支援策としての応用が認められました。また、在宅勤務中は、治療により、仕事の効率はある程度低下することは否めません。しかし、事業者側は、その社員が持つ専門知識、技術力は低下しないことを前提に業務量や質、期限に配慮し、適切な労務管理を行うことそのものが、その社員を支援し、事業者の社会的責任を果たすことになるのだと考えています。
「働く」ということは、収入を得て生計を立てる手段という以外にも、自己実現や社会貢献、生きがいの形成や、社会との関わりを育むための機会でもあります。人生における重み、他の生活とのバランスも人により異なります。慢性疾患を持つ社員にとっては、治療費や生活費を得るために、就業の継続が必要な場合があります。また、就業は、これまでと同じ生活リズムを保ち、そして何より、社会との連帯感や、自己効力感を保つ重要な役割を持ちます。殊に効率性、生産性が叫ばれる昨今ですが、「こうでなければ就業できない」と決めつけるのではなく、事業者側、社員側双方が「働くこと」の意味を共に考えることで、両立支援の成功に近づくのではないかと考えます。