治療と仕事の両立支援 ~産業保健専門職の活動を通して~
山梨産業保健総合支援センター 産業保健専門職 小川理恵
山梨産業保健総合支援センター(以下「産保センター」と略す)に産業保健専門職として着任したのは3年前。「治療と仕事の両立支援」の普及は、産業保健専門職のミッションです。
前職では企業の中で労働者を目の前に、毎日健康支援をしていましたので、私にとって「治療と仕事の両立支援」は、労働者が病気の診断を受けた時がスタートではありませんでした。労働者への個別の支援は、「健診で要精密検査になったけど、大丈夫かな?」「調子が悪いのだけれど、何科を受診すればいいの?」と、病気の診断に至る前の相談からスタートすることがほとんどでした。診断を受けた時、治療が始まる時、治療中のそれぞれのタイミングで、その労働者の思いに気持ちを寄せ、その方を取り巻く人や仕事の調整を行ってきました。高血圧や糖尿病の管理をしている労働者であれば、毎年の定期健康診断結果からのアプローチや、治療中断を防ぐためにメールや電話で気にかけているサインを送ることで人間関係が構築され、いつしか体調や生活の変化について本人から報告が来るようになりました。このような日々のやり取りが広い意味での両立支援でした。
しかし、医療専門職や産業保健スタッフがいない職場では、労働者(患者)が病気の診断を受けた時が、相談のスタートになることがほとんどでしょうし、もし、事業主や上司が相談を受けても、「本人のために」と治療に専念することは提案できても、治療しながら働き続けるように提案できるでしょうか。
産保センターが両立支援の出張相談窓口を開設している病院の担当者とお話しした時、担当者から放射線科の看護師に、「乳がんの放射線治療で通院されている方から『こんな治療だったら、仕事を辞めなければよかった』と言われた」との話を聞きました。ゆっくり話ができるようになってからでは(両立相談は)遅いと感じましたと言われたのです。多くの労働者(患者)が退職を決断するのは、診断を受けてすぐであることから、診断を受けた時にはできるだけ早いタイミングで、医療機関の身近な看護職等から、「治療に向けて、職場の休暇制度を確認しておくとよいですよ」、「病院に治療と仕事の両立について相談できる窓口があります」と、労働者の仕事に触れて、退職の決断にブレーキをかけていただけるようお願いしました。個別の労働者(患者)への両立支援は、本人が職場に支援を申し出ることから始まります。職場に限らず、誰かに自分の病気のことを話す事はエネルギーが必要ですし、労働者(患者)が相談したとしても、対応に戸惑う事業場も少なくないでしょう。産保センターでは、労働者の働く意欲と労働力が発揮できるよう、事業場の環境づくりをサポートします。
これからも、「個々の事情に応じた柔軟な働き方」ができる社会の実現に向けて、関係機関と連携しながら、産業保健専門職として役割を果たしていきたいと思います。