治療と仕事の両立支援に対し、保健師のかかわり方を考える
東海旅客鉄道株式会社 健康管理センター 東京健康管理室 保健師 澤田千草
平成30年度版厚生労働白書によれば、誰もが病気や障害を有する可能性がある中で、人生の充実という観点から、病気や障害などを有していても、個々の能力を最大限に発揮できる環境づくりを行うことの重要性が指摘されています。企業においても「治療と仕事の両立支援」を整えることは、全ての社員にとって安心していきいきと働くことのできる職場環境につながることから、その必要性は高まっていると思います。
今回、改めて「治療と仕事の両立支援」を考えるにあたり、社内で行っている支援体制や保健師の関わりを紹介してみたいと思います。
疾病を抱える社員が、仕事を理由に治療を中断し、元々の疾病を悪化させてしまうことや、働く意欲や能力がある社員が、病気を理由に、職場の理解や支援が得られずに離職に至ってしまうことは、会社にとって貴重な人的資源を失う事につながり、さらに社員自身にとって、生活や自己実現の手段を失うことにつながるため、双方にとって避けたいことといえます。このため、全ての社員にとって、仕事と治療を両立しやすい制度の拡充が求められています。
当社においても、近年、さまざまな制度が整えられてきており、通院のためにフレックス制度や時差出勤制度、不妊治療のために一時的に休職できる制度などが利用されています。また身体疾患による休業後、復職の際に産業医が事前に面談を行い、必要な社員に対して、リワークトレーニングを実施しています。リワークトレーニングの制度は、がんを患う社員や病気や事故により身体障害を抱えた社員などが活用しています。復帰前に復帰する職場においてリワークトレーニングを行うことで、社員や職場が復帰後のイメージを持ち、本人と職場の双方に復帰後の不安が少なくなることを目的にしています。リワークトレーニングの中で、社員は実際に通勤練習を行い、定時で働く上での体力などについて具体的に把握することになり、職場は今後どのような事を配慮していけばよいかを考える準備期間となっています。この期間を経て復帰をした時には、病気や障害に対して上司や同僚の理解が得られやすく、スムーズな職場復帰につながっています。
疾病を抱える社員に対し、私たち保健師がかかわる場面は多いです。保健師は普段から社員との身近な関係づくりが大切だと考えており、担当している職場に対して職場巡視や健康教育、面談を通じてよく顔を知ってもらえるように出向き、相談しやすい風土を作るようにしています。これにより、疾病を患った際に本人や職場から相談を得やすくなります。例えば、がんと診断された社員からは、疾病や治療そのものへの不安、住宅ローンや教育費、治療にかかる費用への経済的な不安、治療しながら仕事を継続していけるのか、今まで積んできたキャリアをあきらめなくてはならないのかといった、今後のキャリアへの不安などが相談としてきかれます。その際、不安を減らし、キャリアをあきらめなくてもよいように、不安を傾聴し、会社の中で使える制度について紹介し、つなげるなどによって、継続的に連絡をとりサポートしています。また、病気を抱える社員の復帰支援や就業上の配慮をする職場管理者からの相談に対しては、産業医と連携してかかわり、職場に対する支援も実施しています。
保健師は普段の職場巡視や面談において、社員が潜在的に抱えている治療と仕事の両立に関する悩みを拾い上げることを心がけています。今後は、全ての社員にとって働きやすい職場をつくっていくためにも、会社全体の制度を整えていくことが大切になることから、人事部門と連携し、病気の予防や早期発見、重症化予防を目的とした、教育研修や啓発をさらに進めていくことで、治療と仕事の両立に理解がある職場風土づくりを実現していきたいと考えています。