両立支援は、いつから?
塚田産業保健師事務所 保健師 塚田月美
令和3(2021)年度版「労働経済の分析」では、新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響について述べています。転職者数(過去1年以内に離職経験のある就業者)の推移をみると、2020年は感染拡大の影響により、2010年以来10年ぶりに減少に転じ、32万人と減少幅も大きくなっているそうです(転職者の推移は、2010年の283万人から増加し、2018年は329万人、2019年は351万人でしたが、2020年は319万人となっています)。また、転職者の前職の離職理由の変化(前年差)をみると、2020年には、「人員整理・勧奨退職のため」等により離職し、転職した者が増加した一方で、「より良い条件の仕事を探すため」に転職した者が大きく減少していたそうです。
このような状況下、人事担当者から、中途採用者の雇入時の健康診断の結果、「既往症」や「自覚症状」に関して、業務を遂行する上で、就労上の配慮について産業保健スタッフへの相談が増加していると感じます。このような事例は、判例による「採用当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知ったとき」(三菱樹脂事件=最大判昭48・12・12民集27・11・1536)に該当すると思います。事業者は雇い入れる労働者の健康状態を把握するために、労働安全衛生規則43条で、事業者に「雇入時の健康診断」の実施が義務付けられており、その診断項目には、「既往症」や「自覚症状」等も含まれています。定められている就業規則の内容に則り、試用期間は、本採用に先立って、労働者を実際に職務に就かせることで、労働者の職業的能力や素行、健康などの業務遂行における適格性を判断するために設けられる観察期間です。産業保健スタッフは、この試用期間に、雇入時の健康診断の結果を踏まえて、その労働者と面談をし、仕事と治療の両立支援が必要な場合は、同意を得て主治医の意見書など客観的な資料を入手し、健康などの業務遂行における適格性を判断する役割を担っていると思います。
「両立支援は、いつから?」と問いかけましたが、仕事と治療の両立支援が必要な「採用当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知ったとき」である試用期間中から始まっているのではないかと思います。
引用:「令和3年版 労働経済の分析」を公表します~分析テーマは「新型コロナウイルス感染症が雇用・労働に及ぼした影響」~
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19846.html