私の産業保健活動を通して考える治療と仕事の両立支援について
東京産業保健総合支援センター地域窓口 北地域産業保健センター 保健師 猿山淳子
私は今まで企業の健康管理センターや健康保険組合、健診機関の保健師として働く人への健康支援をしてきました。「治療と仕事の両立支援」ではがんや難病における職場復帰支援が中心となる疾病に加えて、糖尿病や心疾患等も早期治療介入とその継続による重症化予防、合併症の発症防止が対象とされています。しかし、企業における労働安全衛生法による定期健康診断の有所見者もまた、必要な医療支援を受けることにより、病気を抱えながらも働く意欲を持ち続け、能力のある労働者が仕事を理由として治療機会を逃すことなく、また適切な治療を受けながら、いきいきと就労が継続できることも重要なことであると思います。
いま、私が所属する地域産業保健センターは50人未満の事業場で働く人への健康支援活動をしています。センターでは労働安全衛生法に基づき労働者の定期健康診断結果について産業医の就業判定を受けた結果、緊急の場合はすぐに事業所担当者に連絡、受診時間の確保・確認を行ってもらうようにしています。コロナ禍で事業所訪問ができない状況が続いていますが、できる範囲で訪問面談し受診の必要性を説明、事業所担当者には受診する時間を作っていただくようにしています。直接面談できない事業所には個人にあったアドバイスを添えて資料を送るようにしました。このような取り組みから少人数ではありますが労働者は病気と付き合いながら仕事を継続しています。
あるデータによれば健康診断受診後の要受診判定該当者についてその後1年間のハイリスク群でも血糖高値の者の50%、血圧高値の者の62%、脂質高値の者の76%は受療行動が確認できなかったとの報告(参考1)があります。このように受療行動ができなくなってくると重症化して仕事との両立ができなくなります。私が以前勤務していた健診機関の調査でも人間ドック、定期健康診断、生活習慣病健診受診者を3か年追跡した結果では、高血圧、高血糖を指摘された者のうち未治療者の割合が変わっていないという結果になりました(日本産業看護学会で発表・2012年)。そこで今後の課題として健康診断の結果の見方について対象者が理解しやすい表現や、再検査対象者に検査を受ける重要性の資料を入れるなど対策を考えました。
また、健康保険組合では要医療該当者に文書で受診勧奨を知らせる方法と保健師による直接面談での方法を比較したところ、3か月後受診の有無については、保健師による直接面談による方法が有意に高い結果となりました。
産業保健の現場ではいろいろな支援を展開してきました。これからも、人生100年時代を病気と付き合いながら活き活きと働いていけるように試行錯誤しながら、支援をしていきたいと思っています。
参考1 「健診後受療行動予測モデルの開発」:産業医学ジャーナル 2021 No.4