治療と仕事の両立支援と産業保健活動
公益財団法人 東京都予防医学協会 加藤京子
私は外部労働衛生機関の立場から、専門職のいる企業においては主に産業保健看護職と連携しながら保健指導や健康相談を、専門職不在の企業においては事業所衛生管理者と連携しながら上記の相談業務の他、健康管理業務のサポートを行っております。そして、この数年は、所属組織である東京都予防医学協会職員の健康管理も行っています。
治療と仕事の両立支援については、特に専門職不在の企業の衛生管理担当者から相談を受けます。企業規模や業種、働き方も様々なため、色々なケースがあります。職場によって差はあるのかもしれませんが、ガイドラインも整備され、治療しながら働くことについて、労働者本人や職場の理解も深まりつつあると感じています。
数年前となりますが、訪問している事業所衛生管理担当者から、「がんになった社員がいる。これから治療にはいることから勤務上の配慮が必要となりそうだ。本人は知られたくないと思っていて周りには本当のことは言っていない。周囲への協力を得るための調整などどうしたら良いかとその上司が悩んでいる」、との相談がありました。まずは、本人が治療しながらも働きたい意志があり、その相談をその上司が受けることができていることが何より大切である、と伝えました。そして、病状から、治療や経過観察が長期にわたる事の可能性を情報提供するとともに、主治医と連携し、産業医の意見を仰ぎながら職場の協力と理解を得て進められるよう、本人及び上司への支援をアドバイスしました。本人の知られたくない、との思いについては、何を不安に感じているか、まずは丁寧に本人の思いを聞くことから始めてほしいとお伝えしました。その衛生管理担当者は本人の承諾を得て、周囲と連携しながら対応を開始されました。
その会社は当時は両立支援の体制は整っていませんでしたが、今では、休暇制度や勤務制度の整備、申し出るための相談窓口の設置といった体制等の整備とその周知がなされました。合わせて、全社員への治療と仕事の両立に関する研修が定期的に行われています。
超高齢化社会に向かい、高年齢労働者が増えていく時代となります。がんだけではなく、脳や心臓、糖尿病などの治療をしながら働く労働者も多くなると考えられます。また、女性の活躍も期待され、女性特有の疾患を抱えながらも元気に活き活きと働ける環境づくりが望まれます。2022年4月からは不妊治療も保険適応となり、その治療と仕事の両立を支援することも会社には期待されます。昨今、健康経営の推進も相まって、治療と仕事の両立は浸透しつつありますが、やはり大切なのは、治療に進む前からの健康管理であると考えます。定期健康診断結果を活かすこと、がん検診を受けてその後の対応をきちんとすること、労働者がヘルスリテラシーを高められるための支援が既に両立支援であると思います。と、同時に、相談現場においては労働者が自分のからだの困りごとを何でも相談できる、その労働者を支援する事業所衛生管理者の困りごとの相談にも寄り添える、外部労働衛生機関からの産業保健活動を行っていきたと思っています。