今月の現場から(保健師コラムリレー)

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がん治療者への両立支援を振り返って ~治療者と職場をつなぐ架け橋に~

関西医科大学看護学部 吉田麻美

皆さんの周りには、がん治療をしながら仕事をされている方はいらっしゃいますか? 中には、職場の仲間としてどのようにサポートしたらよいか、悩まれた方もいらっしゃるかもしれません。
 これまで、産業看護職の立場で関わってきた両立支援を振り返りますと、私が大事にしてきたことは、治療者と職場をつなぐ“架け橋”としての役割ではないかと思っています。

■治療開始前から始まる支援体制の土台づくり
 ご本人からの申し出のもと、両立支援は始まります。そのため、社員との相談しやすい関係づくりはとても重要です。治療開始前から支援を始めることができると、想定される心身や生活の変化、活用できる社内制度や職場の支援について、ゆっくり時間をとって話し合うことができます。こうして、これからの生活の選択肢を広げ、時には主治医とのコミュニケーション方法を助言するなどしながら、がんとの付き合い方の支援を行ってきました。ご本人が治療について職場に伝えていれば、職場の上司とも連携をとり、両立支援における産業保健スタッフの役割をお伝えできます。これは、がん治療者をサポートする上司の支援にもつながっていきます。これらの積み重ねが、がん治療者の支援体制の土台づくりにつながると思い、取り組んでまいりました。
■職場復帰に向けて、治療者と職場のWin-Winな関係づくり
 手足にしびれや痛みが生じる手足症候群という抗がん剤の副作用は、症状を最小限に抑えるためには、指や手掌、足裏に強い圧が加わるような作業は避けた方がよいといわれています。職場復帰の時点で、本人から上司にそのリスクを適切に伝えられるでしょうか。
 抗がん剤治療中の方であれば、一般的な副作用の話とあわせて、ご自身が経験した副作用症状の出方や対処、ご自身が捉えるこれからの見通し、職場に戻る上での気がかりなど、ご本人が体験していることを、治療日誌と照らし合わせながら確認しあい、職場復帰後の勤務調整や作業内容の変更、通勤の配慮など、職場の上司と率直に話し合える場をつくるとともに、必要時には双方にかみ砕いて説明をしたり、発言のアシストをしたりしながら、相互理解の支援を行ってきました。

 がん治療中の方の体験は、病状や治療、生活背景、信条など様々な要素によって多様です。また、治療を重ねるにつれ身体への負担が大きくなる方や、症状に対する辛さや再発への不安、人間関係やキャリア、経済的問題など様々な理由で、心に大きな負担のかかる方もいらっしゃいます。支援は時間や状況によっても変化する個別性の高いものとなり、きめ細やかなコミュニケーションと連携が必要です。架けた橋を渡るのは、がん治療者本人です。社員の最も身近な専門職である産業看護職は、本人が少しでも精神健康度高く就労継続できるよう橋を架け、その先も心と身体の変化に寄り添い、継続的にフォローアップすることで、その橋をそっと支え続ける、そんな役割を担うと思っています。

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