治療と仕事の両立支援事業に携わって経験したこと
京都産業保健総合支援センター 産業保健専門職 松田雅子
治療と仕事の両立支援事業を担当することになり、ちょうど4年が経ちます。労働者や事業場からの相談の対応、啓発セミナー、病院との連携など、少しずつ経験を重ねてきました。令和3年度に京都でお受けした相談のうち、約7割をがんの方が占めており、所属事業場の規模は10人未満から何万人まで、大小様々です。
労働者と話をするときは、動機づけ面接で教わった「2人の専門家」という考え方を意識するように心がけています。私は支援者としての専門家、労働者は自分の人生の専門家。「仕事がしんどいんです。」という話は様々な治療中の方からお聴きしますが、その短い発言の背景について「身体への負担が大きい治療を受けていてしんどいのか?」と見立てをしつつ話を聴いていくと、「受診のため、自分の仕事を他の方にお願いせねばならないのがしんどい。」などのように仰る方々もおられます。相談者が発する言葉の意味について、ご本人の価値観、大事にしていることを探りながら聴くことを心掛けたいと思っています。
医療が進歩し、仕事を続けながら治療もできる時代と言われています。しかし、相談を受けるたびに、ご本人を始め、会社や周囲の認識はまだまだこれからと感じています。普段、がん治療を受ける患者さんと接している医療関係者の方々でも、「自分ががんになって初めてわかったことが沢山ある。」と、治療中や復職後の揺れる心境、感情をお話しなさることもあります。
ところで、産保センターに相談をくださる方は、ご自身のことをうまく説明される方が多いです。「相談する」という行動には、まず相談窓口に辿りつくこと、顔も見えない相手に電話をしてみること、そして病気の経過を説明し、「今日、なぜ電話をしたのか。何に困っているのか。」をプレゼンするスキルが必要になります。電話してこられる方は、そのスキルを持っている方だと感じています。さらにスキルが上になると、両立支援の経験がない会社に対して「自分は今の仕事が大好きで、こうすれば両立できます。」ということを繰り返しアピールし、会社の姿勢を変え、シフトの配慮を受けて両立することができた方もおられました(※1)。
両立支援は職場環境にも大きく左右されます。ある会社では理事長、事務局長ともにがん経験者でした(※2)。そのため、抗がん剤治療後の体調不良まで経験されており、まずがん予防教育の徹底、喫煙者ゼロの達成、そしてがん特別休暇(有給)も設けておられます。理事長が「働き続けないと高額療養費制度があっても医療費が高くてお金がもたないよね。」と仰ったのがとても印象的でした。会社に病気の経験者がいると、周囲の理解がぐっと広まります。
今はまだ、相談するスキルのある人、運よく相談できる人に会えた人、環境に恵まれている人が支援を受けられている段階だと感じています。治療と仕事の両立が当たり前の世の中になるまで、この事業に携わっていけたらと考えています。
※1、※2 事例を掲載させていただくに当たり、相談者様の承諾をいただいております。