両立支援への鍵~日常の産業保健活動から思うこと~
一般財団法人日本健康開発財団 本田桐子
「治療と仕事の両立支援」を成立させるために、何が鍵となるのでしょうか。
それは「柔軟な人事制度」「職場の理解」「定期健康診断の事後措置」にあると考えます。
復職から6ヶ月間のリハビリ勤務制度を導入し、職場復帰支援に取組んでいる事業所があります。産業医の意見を尊重し、職場は業務量や就労時間の調整を行います。従業員は通院時間の確保、治療の副反応への対応、体力など様子をみながら復職しますので、ご本人と共に働く同僚の双方にとって、段階的に就労を再開できる有効な制度です。一方で、治療が長期化する疾患等の支援には更なる取り組みが必要とその事業所の担当者は言います。例えば雇用を保障しつつ、体調や治療状況に応じて柔軟に勤務形態を選択できる人事制度、治療・通院目的の休暇・時短制度等の充実を図るよう検討が必要でしょう。
わが国の現状においては、多くの企業が、業務を効率化し、限られた人員配置で業務を運営されていることと思います。小規模事業所やシフト制の職場は、急な休務者の発生、通院のための離席、就労制限による業務負荷の軽減者が発生すると、たちまち運営に支障をきたします。そのため「勤務時間や業務の内容を調整してほしい」と上司に要望を伝えることをためらう人もいらっしゃいます。安心して治療と仕事を両立させるために、職場単位を超えた業務支援体制や積極的なIT技術の導入・活用等による、職場環境整備が進むことも必要です。
課題はまだありますが、私は、共に働く人々に支えられています。保健師として、職場にはご本人の同意の範囲で情報を開示し理解を求めたり、人事労務担当者とも状況を共有し、組織的に支援を行うことで、ご本人だけでなく同僚への業務負荷や心理的な負担が軽減されるよう配慮しています。「皆いろんな事情がある。病気の時はお互い様」と言ってくださる職場もあって、助けられています。このような風土が醸成されることを目指し、両立支援の啓発と対話を重ねていきたいと思っています。
「治療と仕事の両立支援」は、本人の申し出から始まります。職場や人事労務担当者との連携が進み、休職中から保健師が関わることができるようになってきました。糖尿病に関しては、労働安全衛生法による定期健康診断を起点にアプローチが可能です。肥満、高血圧、脂質異常などは、心臓・脳血管疾患の発症を予防する指標として活用できます。事後措置として、早期発見・早期治療、治療経過の確認、生活習慣改善指導を行うことも「両立支援」に繋がると改めて気付きました。
病気の為、休職に入っても、多くの社員が「また働きたい、復帰したい」とおっしゃいます。働くことは「生きがい」であると、支援する立場の私の方が勇気づけられます。たとえ病気や障害があったとしても貴重な人財として尊重され活躍できる組織になることを願い、少数派の声を拾い続けていくこと、そして諦めずにそれらを組織に伝え続けていきたいと思います。