~治療をしながら働く社員との対話を通して学んだこと~
東海旅客鉄道株式会社 健康管理センター 新大阪健康管理室 保健師 西ヶ谷 江里
日本の少子高齢化は急速に進行し、生産年齢人口(15歳~64歳の就労世代の人口)は減少の一途を辿ると推計されています。このような人口動態を背景にして労働力を確保するために、女性や高齢者が十分に活躍できる職場環境を各企業が整えることはとても重要です。育児支援を充実させることなどにより女性の就労割合は徐々に増加し、定年年齢の引き上げや再雇用制度などによって、シニア世代の就労割合も増加しました。しかし、一方では、その健康課題も浮き彫りになっています。就労世代の女性のがん罹患率は増加傾向であり、高齢になればなるほど何らかの病気や体調不良を抱える労働者は増えていきます。さらに、近年の医療の進歩によって、病気の治療を受けながら働くことができるケースが増えた反面、治療と就労の両立に悩むケースもまた増えています。
生死をさまようような経験を経て、職場に復帰することができた社員との面談でお話を伺いますと、一見問題なく働くことができているように見えても、心身に何も問題なく働いている社員には想像ができないほどの多種多様な悩みや不安な気持ちに苛まれていることがわかります。病気をもつ社員に理解のある上司や職場も増えてきた一方で、「そんな病気を持っていては、この仕事は務まらない」といった発言を無造作にしてしまう上司も散見されます。悩みや不安を職場の上司に打ち明けたくても、打ち明けたことによって不利益を被ることを恐れて打ち明けられず、さらに悩みや葛藤を深めて、抱え込んでしまうことがあるのです。「自分の身体が動く限り、職務を全うしたいのです。そのために、今は仕事を休んで治療に専念したいのですが、上司に相談したら、会社の中に自分の居場所がなくなるかもしれない。だから、相談できないのです。」社員は、このような上司や人事部門には言えない率直なお気持ちを、職務上の利害関係がほとんどない産業保健専門職には心を開いて相談してくださいます。この率直な対話こそが、適切な対応につながると考えます。
病気を原因として就労の場を失うことは防がなければなりません。治療による体力の低下から、自分が働き続けることによって職場の周囲の人に迷惑をかけることは避けたいと退職の道を選ぶこともその一つです。悩みや不安を抱える社員に寄り添い、その思いを汲み取ること、会社の職務や制度に精通し、社内の人事部門や管理職との良好な信頼関係を築くことで、社員が不利益を被らないように、かつ会社の利益も落とさないように調整することが産業保健専門職の役割と考えます。そのために、社員がいつでも相談しやすい環境を整え、社員の抱えている顕在化していない症状や不安をキャッチして、プライバシーに配慮しつつ、それに対し会社や管理職が具体的な対応ができるように分かりやすく伝えていくことが大切であることを、社員との対話を通して学びました。