事業場が「治療と仕事の両立支援」に取り組む意義
北海道産業保健総合支援センター 産業保健専門職 鳴海志織
「事業場における治療と職業生活(仕事)の両立支援のためのガイドライン」(以下ガイドライン)は、平成28年2月に作成されてから今年で7年になります。産業保健総合支援センター(さんぽセンター)ではその普及活動と事業場、労働者への支援を続けています。ですが、さんぽセンターへの相談や両立支援をテーマとした研修会への参加者が多くはないことから、普及不足を感じています。
当センターでは、2019年~2021年にかけて北海道内の約14,000事業場へガイドラインの認知度についてアンケート調査をしました(約3,000事業場から返信あり)※。その結果、ガイドラインについて名称も内容も知っている事業場は1割、名称は知っているが内容は知らないが4割、名称も内容も知らないが5割という結果であり、認知不足を裏付ける結果でした。特に労働者50人未満の事業場や都市部以外の地域ではこの傾向が強く、道内において普及推進が喫緊の課題であると実感しています。
そこで今回は、両立支援に取り組んでいないこと、ガイドラインを知らないことが、どのようなことにつながるかをお話しします。
両立支援について当センターへ寄せられる相談は、「近日中に社員が復職するので今すぐ何とかしなくてはならないがどうしたらよいか」「復職した職員が再度不調で休ませたいが有休もなく対応しづらい」「すでに復職している職員を通常勤務させる時期にきたが配慮することは何か」といった、今すぐ対応が必要なことでのご相談が多い印象です。
目指す目標が直近の場合、社内規定を確認し必要に応じて変更、主治医/産業医の意見聴取、職場内の業務調整などを短期間で実施することになります。ですが、当事者や事業場の不安を抱えたまま見切り発車とならないようにしなければなりません。
また、発生ベースでの対応はその時はうまくいくように思えますが、後に別の事例が発生した際に「Aさんの時は長く休ませてくれたのに…」「Bさんの時は収入減にならないよう調整してくれたのに…」と職員間で対応がバラバラなことに不公平感を抱きかねません。
また、人事労務担当者が代わると対応の統一も図れなくなります。
両立支援を進めるにはきっかけは事例発生からかもしれませんが、やはり発生前から社内体制をしっかり整備しておくことが重要です。
社員から「実はがんで休むことになった」「難病の指定を受けたので業務調整が必要になった」などを報告しやすい職場であること、また、報告を受けても慌てることなく「両立支援の制度があるから、安心して治療を受けてほしい」「業務調整が相談できる体制が整っているから安心して」と言える職場であってほしいと思います。
新型コロナ感染症を経て、事業場も労働者も働き方や働くことへの意識が変わったと実感しています。「人材は人財」であり「職場(労働者)の元気は会社(組織)の元気」です。
活気ある職場環境づくりの一つとして、積極的に治療と仕事の両立支援に取り組んでいただきたいと思います。
※アンケート調査結果は当センターH.Pへ掲載予定です。
https://www.hokkaidos.johas.go.jp/