今月の現場から(保健師コラムリレー)

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~「治療と仕事の両立支援」の経験から~

(株)資生堂 人財本部人財企画室ウェルネスサポートグループ 岸 美代子

両立支援に関してこれまでの経験として印象深いのは、若くしてがんに罹患し治療を継続しながら復職をした社員のことです。
 がん発覚から治療に至るまではあっという間で、初の入院・手術、休職など、突然降りかかった大きな出来事での環境の変化を、「仕方がない」と淡々と語る姿は、どこか他人事かのように冷静で、急なことで精神面での受容が追いつかないようにも映り、かける言葉が見つからなかったことを、何年も前のことながら鮮明に覚えています。
 入院期間自体は短いものの、その後の自宅療養や抗がん剤治療等を含めると、就業できる体調に戻るまでに期間を要し、社歴が浅く規程上傷病休職期間が限られる社員にとっては、時間と体調との戦いでした。また、職場に迷惑をかける、同期に遅れを取るなど、仕事面でも様々な葛藤を抱えているようでした。
 休みの間も保健師がフォローし、産業医や適宜人事等とも連携を図り、復職、また治療と仕事の両立に向けた支援を検討していきました。
 退院後も抗がん剤治療等を継続しており、主治医の復職可能の判断があっても、治療の副作用や、冬は感染症のリスクも高くできるだけ人混みを避けることが望ましいこと、抗がん剤治療中は、実家のサポートを要する状況で通勤に時間がかかるなど、出社勤務が懸念される状態でした。
 在宅勤務制度はあるものの、その勤務時間の上限規定があり、定期治療による休みと就業できる日数の兼ね合いから復帰は難しく、制度の壁も痛切に感じた瞬間でした。また、仮に在宅勤務でも、どのような業務ができるかということも課題にありました。
 しかし、主治医の治療計画を元に、本人や人事・上司とも相談・調整を重ね、一定期間のみ在宅勤務上限時間を引き延ばす特例で、復職が許可されました。在宅勤務をメインとし、出社の際の時差出勤や感染予防として就業時の会議室利用なども配慮されました。また、業務内容や、業務上のサポート役、上司や部門内のコミュニケーションをどう図るかなども調整が進められました。
 無事復帰ししばらくの後、産業医や保健師面談の場面ではなく、同僚と笑顔で業務を行う姿を社内で実際に見かけたときは、親心のような安堵の気持ちでした。
 治療と仕事の両立支援については、がんや脳卒中など、社員の高齢化が加速度的に進む中で、より一層重要であり引き続き考えていく課題です。会社の制度・規程や安全配慮の観点からも、現実的な解決策はケースバイケースで悩ましいことが多くあります。しかし、疾病を抱えながら、また、必要な治療を継続しながらも、社員一人ひとりがいきいきと仕事が続けられるよう、関係者と連携を図りながら、本人や上司へ、保健師として何かできるかということを考えながらサポートできるよう心掛けていきたいと思います。

※本コラムで紹介している事例は、筆者の自験例を元に作成したものです。

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