治療と仕事の両立支援における産業看護職の役割と組織風土の重要性
オムロンエキスパートリンク株式会社 保健師 最上裕子
オムロングループでは、社員一人一人がそれぞれの健康課題を有しながらも組織に貢献して長く働き続けられるよう、全国の主な事業所に産業看護職を配置し、全社的に健康経営を推進するとともに、個々の職場環境に基づいた産業看護活動を実践しています。治療や休業が必要となった場合も、社員が個性や能力を発揮しながら就労継続ができるよう、産業看護職が調整役となって「治療と仕事の両立支援」の実現を支えています。
私は現在、オムロン製品のアフターサービスや交通・流通・環境ソリューションなど幅広い分野で全国規模の社会インフラに携わるグループ会社を担当し、2年目を迎えます。当該会社の社員は、暑熱や寒冷下での作業、夜間作業や長時間の車両運転などの過酷な現場労働に従事する技術職が多くを占めています。平均年齢は年々上昇しており、健康管理がより一層重要となることを日頃の産業看護活動を通して実感しています。
昨年、中途障害で半身麻痺が残存したベテラン社員の職場復帰支援に携わる機会がありました。技術職から事務職への職種転換と、職種転換に伴う異動が必要となり、新しい職場で障害を抱えつつも安全かつ安定した業務提供ができるよう、異動先の職場での受け入れに時間をかけて対応しました。本人の復職意欲を確認しながら、上司・人事・ダイバーシティ部門・産業医と協議を重ね、さらに主治医との連携、行政の福祉施設の活用を含む社内外の調整において産業看護職が中心的な役割を果たし、本人との定期的な面談を継続しながら現在も就労継続を支援しています。複雑な状況が重なったことに加えて、私が着任して間もない時期でしたが、社内関係者との信頼関係を築きながら本人と会社双方にとってより良い就労の実現を模索した印象的な事例となりました。
長い職業人生においてやむなく健康障害を発症した場合も、社員が不安を抱えることなく治療に専念しながら就労継続ができる、「治療と仕事の両立」に理解がある会社と感じています。上司がキーパーソンとなり、必要な情報や制度が適切な時に必要な人へ届くよう、社内関係者が協力して支援する中で、産業看護職は社員や職場のニーズを直接把握し、きめ細やかで円滑な支援に繋げる役割を担っています。また、担当会社は平均勤続年数が長く、社員同士の縦と横の連携が機能し、お互いを思いやり声を掛け合う家族のような温かさが育まれている組織風土です。このような組織風土が、多様性を尊重する土壌を築き上げており、それゆえに産業看護職の役割が発揮され、両立支援の実現にもつながっていると考えます。
今後も、社員のさまざまな状況に応じた健康支援につなげられるよう、産業看護の経験を蓄積し、社内外の関係者との連携を強化し、社員や職場に寄り添った存在で居続けたいと思います。
※本コラムで紹介している事例は関係者の同意をいただいた上で掲載しています