今月の現場から(保健師コラムリレー)

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治療と仕事と・・その人らしい人生の調和を図る選択を支援する

Wholwell合同会社 松尾玲奈

私は長年、製造業の企業で、社員でもある産業保健師として活動していました。数年前に開業保健師として独立したのを機に、規模や業種の異なる複数の事業所に定期的に訪問し、保健活動を行っています。

 「治療と仕事の両立支援」が注目されていますが、「病気の治療」と「働く」ことは二者択一ではなく、「2つを両立させる」という考えのもと支援することを意味しています。言葉通りに受け取れば、「治療」と「仕事」の2つのバランスをとることを想像してしまいますが、働く私たちの生活は、その2つだけで構成されているわけではありません。私は、「治療」と「仕事」という2つの部分だけに注目するのではなく、対象者の周囲で起こっている様々な事象や文脈を捉えて、全体の調和を図るよう、支援することを心がけています。

 とはいえ、組織の規則やその他の様々な制約によって、理想通りの調和が叶わないことは少なくありません。一部の業種や職種では、テレワークの浸透やフルフレックス制度の導入、有給休暇の奨励などにより、働き方の柔軟性が増して、治療を含めたその他の生活と仕事を調和させるための環境は整ってきました。しかし、現業職など、職種によっては、同様の制度を適用できません。また、上記の制度が適用できる職種であっても、物理的な労務負担軽減そのものが、本人の働きやすさや働きがいを減らしてしまうこともあります。

 抗がん剤治療中の労働者を例に考えてみます。その方は技術職で、テレワークが適用できる職場だとします。多くの場合、上司や人事担当者も「通勤が負担になる体調の時は、テレワークをしては?」と本人に提案します。しかし中には、出社をして、周囲の人とやりとりをしながら、あるいはやりとりをしている同僚を感じながら自席で仕事を進め、時に若手の同僚の相談にのることに、仕事の意味を見出しておられる方がいらっしゃいます。自宅にいると、病気治療中という意識だけに囚われがちですが、会社に来ることで、それ以外の社会的役割があることや、貢献できている実感が得られます。周囲が”よかれ”と思うことが、必ずしも本人にとって最善のことではないのです。
 本例のような場合、ご自身での病状の理解も良好で、産業保健スタッフへの状況の開示も明確であれば、体調や治療経過、通勤や勤務に伴う安全確保状況、食欲がない時の食事の摂り方、家族との関わり、といった様々なことを面談で伺うとともに、ご本人の同意を得て、心配されていた上司や人事とも情報共有する機会を設けて支援していました。

 ”治療か仕事かの二者択一”という労働者側の考え方も、まだ根強く残っています。
傷病休業制度もあり、年次有給休暇取得も推奨されている事業場の労働者であっても、「病気で仕事を休むことは許されないこと」「病気を持っていることが自身の雇用に不利益になる」「治療を開始する時は辞める時」といった誤解をされている方にお会いすることがあります。
 開業保健師の立場では、組織に常勤の保健師とは異なり、面談の機会が限られていますが、その貴重な面談機会を得られた時には、ご本人の治療に伴う就労の不安をお聴きしながら、ご本人にはなかった「治療をしながら就労を継続する」という選択肢を持っていただけるように努めています。

※本コラムで紹介している事例は、筆者の自験例を元に作成したものです。

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