「治療と仕事の両立支援」~視野を広げて、垣根を越えて~
和歌山産業保健総合支援センター 産業保健専門職 平林愛子
和歌山県は、日本最大の半島である紀伊半島の南西部に位置し、紀伊山脈の山々からの恵みの水源が太平洋へと流れる豊かな自然環境が広がっています。和歌山県の高齢化率は全国的にも高い水準にあり、産業構造においても50人未満で産業医選任義務のない小規模事業場が大多数を占め、労働者数の減少かつ高齢化も進んでいます。これらの背景から、「治療と仕事の両立支援」(以下、両立支援)の取組みが今後さらに重要になってきます。
しかしながら、和歌山県における両立支援への周知と理解は進んでいるとは決して言えない現状があります。和歌山県内で和歌山産業保健総合支援センター(以下、和歌山さんぽ)と協定している医療機関相談窓口の担当者からは「両立支援の相談はほとんどありません」「そもそも、和歌山さんぽの両立支援とはどのような支援をしてくれるのか分からない」といった声が上がってきました。そこで、和歌山さんぽと医療機関との情報共有や連携を深めるため、令和5年度から定例会議を開催することとしました。会議のなかで事例検討や促進員による講話を通じて担当者間でディスカッションを行うことで、双方の理解と相談しやすい体制を築いています。
以前、脳卒中でリハビリ後に職場復帰を目指す方から、「どのように職場に話をすればよいのか、どう進めていけばよいのかわからないので助けてほしい」と相談されたことが印象に残っています。その後、事業場に出向き、本人と家族、事業場担当者の方々と話合いを重ね、医療機関とも連携しながら復職支援をさせていただきました。当初は、どのように職場に話をしていけばよいのか分からない、事業場担当者もどう対応していけばよいのか分からないといった具合でしたが、話合いが進んでいくうちに和歌山さんぽが介入しなくても復職支援が進んでいくようになりました。和歌山さんぽの役割として、まずは同じ土俵に立って話し合いをする機会をつくる(繋ぐ)、糸口を解き始める役目だったように思います。
医療機関では本人、家族からの相談は受けるが、事業場には繋がっていないという課題があります。一方で、事業場では本人と相談はするが、「医療機関には何を聞けばよいのか分からない」、「そもそも仕事の話ができるのか」という疑問があり、本人自身からも事業場に「どのように伝えればよいのか、進めていけばよいのか分からない」と相談を受けることがあります。これらのように、どこかの立ち位置で本人、医療機関、事業場間で両立支援トライアングルの繋がりが途絶えている現実が課題と考えています。
私事になりますが、和歌山さんぽに着任して3年が経ちました。前職では大規模事業場で産業保健師をしていたこともあり、小規模事業場では、そもそも治療と仕事の両立支援を知らない、相談できる担当者や制度がない、たとえ制度があったとしても活用できていない現状への戸惑いから始まりました。なるべく早い段階で本人の困りごとは何か丁寧に聴くことを心がけています。また、支援者としての限界があることも理解しながら、その困りごとを解決していくために一人で抱え込むのではなく、視野を広げてどこに、どのタイミングで繋げていけばよいのか、本人、事業場、医療機関それぞれの垣根を超えた両立支援ができるよう取り組んでいきたいと思います。